帰 路

 韓国三日目は、午後からは帰国である。
午前中は、土産品購入を兼ねて国際市場へと向かった。龍頭山公園の西側に位置する国際市場は、二つの市場ビルを中心に南北に細長く延びたシヨツピングゾーンである。
朝鮮戦争直後に、国連軍やアメリカ軍の軍事物資などを売るヤミ市がその前身である。
ここは、貴金属から革製品、メガネ、衣類、靴、食料品などあらゆるものを扱う店が軒を連ね、この狭い400bほどのエリアに1400軒以上も店があると言うことであった。
朝早いため、いくつかの店は閉じられていたが、やがていつもの活気を取り戻すのであろうか、時間と共に人々の数がざわめきとなって聞こえてくる様に思えた。
外国人の観光客も多い精か、店員たちは片言の日本語でしゃべってくる。日本語で書かれた看板等も目についた。一流ブランドのコピー商品の数々。女性観光客には、見逃せないスポットである。
驚いたのは、路上に食べ物を並べて商売するモツチヤコルモク(グルメ通り)と言う簡易の食堂だ。昼前の準備でアジユマ(おばさん)たちが忙しそうである。準備の終わった露店では、アジュマたちが料理の前にドッカリと腰を下ろし客を待つ。隣では携帯電話片手に、あたり一面に聞こえる程の声で何やら指示をしている。
キムパプ(韓国風のり巻き)、色々なキムチ、冷麺などであり、客は浴室用のプラスチツクのイスに座り食事する。立って眺めていると、私が日本人に見えたのであろうか、うどんはどうか?と日本語で話しかけて来た。
もう何十年も、ここで露店を開いているのであろう、この地にしっかりと根付いている。

モッチャコルモク、路上の簡易食堂

 韓国最後の昼食は、海鮮寄せ鍋と言うことで、一通り買い物を済ませると、海鮮料理店へと向かった。新鮮な貝類やエビ、タコ、カニなどが入った寄せ鍋料理に、タコの生き造り、キムチ、そしてビール。この頃には、淡白な韓国ビールはすっかり私の体に馴染んでいた。
店の近くに隣立するビルに混じって、十字架を高々と掲げる教会。仏教のイメージが強かった私には、釜山の人口の半分近くはキリスト教であると聞き、何か不思議な気がした。

 我々は、押し迫ってくる帰国時間に、あわただしく金海空港へと向かった。
洛東江を渡ると下流に向かって広がる平地。金海地方、加羅(任那)。ここが日本神話における高天原なのであろうか!
日本の建国神話における高天原を舞台とする天孫降臨神話、その内容は広く東アジアに分布している説話によく似ている。
特に、加羅(から)国の首露(しゅろ)王が亀旨(きじ)峰に降り立った話は、ニニギノ尊が降臨した神話とまったく同じである。かってここはミマキイリヒコ=崇神天皇の宮地であり、ここから騎馬民族を引き連れて北九州に入り、そして東征して三輪山の邪馬台国を滅ぼし崇神王朝を作ったとされる騎馬民族説。
私は、今年の十月に笠沙町を旅した時、神渡り海岸(黒瀬海岸)やドルメンと言う聞き慣れない遺跡(宮ノ山遺跡)を見たが、実はドルメンと呼ばれる遺石が、北方アジアを源流とする支石墓であることを知った。
首露王が天降った亀旨峰は、韓音ではクシフルと言う。古事記には、「筑紫の日向の高千穂の久志布流多気」にニニギノ尊は降臨したと書かれ、日本書紀には、「筑紫の日向の高千穂の串触峰」と言い、まつたく同根である。
ニニギノ尊は、高千穂峰に天降ったとき「この地は韓国にむかい笠沙の御前にまきとおりて、朝日のさす国、夕日の照る国、ここぞいとよきところ・・・」と述べている。
すなわち、ニニギノ尊の天孫降臨神話は、加羅国の首露王の説話の借り物だったと言うことになり、高天原は、この金海地方であった。
そして、当時の任那と呼ばれていた地方に君臨していた夫余族の辰王こそは、ハツクニシラススメラミコトであり崇神天皇であり、大和を支配した。

この事が史実とすれば、
我々は、はるばる九州の博多より空路にて金海地方の高天原に降り立ち、そして今また高天原より日本に向かって飛び立とうとしている。
なんと、ロマンに満ちた旅であろうか!
加羅(任那)こそが日本古代国家の出発点てあったと言える。
 
 わずか二泊三日の旅行とは言え、盛りだくさんのスケジユール、そしてほとんど知り合いと言える人間同士の気さくな旅行。日本語の流暢な女性ガイドに恵まれ、私には稔り多き旅行であった気がする。
美人のガイドに見送られ、我々は、アジアナ航空(OZ134便)にて十三時五〇分、福岡に向け、高天原を飛び立った。
私の見た韓国は、
もつとも日本人に近く、感情的ではあるが素朴で親切で、日本文化のふる里でもあった。
やがて、二十一世紀を迎える両国が、2002年のワールドカップ合同開催に手をたずさえ、新たなる千年に向かって、
良き歴史を刻んで行くことを祈りたい気持ちであった。
眼下に広がる雲海はどこまでも純白で、そのことを待ち望んでいる様に、私には思えた。

対馬海峡の雲海


 今回の旅行に! また韓国に!

    カムサムニダ(ありがとう)
       そしてアンニヨンヒ ケセヨ(さようなら)。


                      平成十一年十二月二十六日 記






  参考文献

「朝鮮の役」        旧参謀本部編纂     徳間文庫
「韓国の悲劇」       小室直樹         光文社
「醜い韓国人」       朴 泰赫         光文社
「韓国真情吐露」       桑原史成
「騎馬民族国家の秘密」   松崎寿和         KKベストセラーズ
「幻の加耶と古代日本」    文芸春秋
「韓国の古代遺跡(新羅篇)」             中央公論社
「慶 州」         韓国           宇進文化社
「わがまま歩き・韓国」               実業之日本社



         

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